透明性・中立性を重視したオープン参加型ステーブルコイン
デジタル資産カストディ大手、BitGo(ビットゴー)が、米ドルに連動するステーブルコイン「USD Standard (USDS)」を発表した。このステーブルコインは、従来の発行者に利益が集中する構造を見直し、参加者全員にリワード(報酬)を分配する新しいモデルを導入することを目指している。BitGoは、金融の自由を再定義するため、初の「オープン参加型ステーブルコイン」を設計し、市場に提供しようとしている。
USDSは短期国債や翌日物レポ、現金を裏付け資産とし、1:1で米ドルに連動する。また、リアルタイムでのリザーブ証明や月次監査を通じて透明性を確保し、参加者がリワードを得られる仕組みを構築する。2025年1月に正式リリース予定であり、既存の米ドル連動ステーブルコイン市場において新たな競争相手として注目を集めている。
ステーブルコイン市場の2トップUSDCとUSDTへの挑戦
BitGoが狙うのは、テザー(USDT)や米サークルのUSDコイン(USDC)が支配するステーブルコイン市場でのシェア拡大だ。現在、USDTは市場シェアの約7割を占め、USDCも重要な位置を確保している。
USDTやUSDCを含むステーブルコインの多くは、裏付けとなる米ドルを、短期国債や翌日物レポ、現金などリスクの低い資産で運用し保管している。しかし、米国の金利が高い環境下でも、その運用益はコイン保有者に還元されず(もしくは規制上の制約などでできず)、発行者側が利益を得る構造が一般的であった。
BitGoは仕組みを変革し、リワードをネットワーク全体に分配する考えを打ち出している。これにより、取引所や流動性提供者、さらには一般ユーザーが積極的にエコシステムに参加するインセンティブが強化される。
USDSの大きな特徴は次の3点:①発行者が規制に準拠したTrust Companyであること、②特定の取引所によって運営されていない中立性、③グローバルにアクセス可能で完全に規制に準拠した形で運用されることである。
米国では、ステーブルコイン法案の議論が進んでおり、特にUSDTの今後の流通に関する不透明さが残る中、Bitgoは規制遵守を前面に押し出している。
多様化が進むステーブルコイン市場の成長
ステーブルコインにおけるリワード還元の仕組みとして、最近注目を集めたのは、ブラックロックが発行する「BUIDL(ビドル)」である。1BUIDL=1USDまたは1USDCに交換でき、保有期間中に運用益が得られる商品だ。しかし、BUIDLは実際には私募債・セキュリティトークンとして位置付けられており、取得にはKYC(Know Your Customer)が必要で、さらに投資契約が締結されるため、誰でもアクセスできるステーブルコインとは異なる特性を持つ。主にWeb3関連ビジネスを手掛ける機関投資家など、特定の層のニーズを捉えた商品と考えられる。
また、大手クレジットカードの米VISA(ビザ)の暗号資産部門責任者Cuy Sheffield氏は、今後、米ドル以外の外貨建てステーブルコインが市場で重要な役割を果たす可能性を指摘している。現在、ステーブルコイン供給の99%が米ドル建てであるが、将来的には他の主要な法定通貨もオンチェーンで取引されるだろうと予測している。
さらに、2024年は暗号資産に関連しない一般事業者がステーブルコインのメリットを理解し、実需に基づく利用が進んだ年として位置付けられている。Sheffield氏によると、ナイジェリアやアルゼンチンなどでは、フリーランサーが米ドルでの支払いを希望するケースが増えており、D2C(Direct-to-Consumer)向けのステーブルコイン需要がさらに高まるだろうと予想している。
新たなステーブルコイン競争
USDS以外にも、先週18日にフィンテック大手の英レボリュート(Revolut)が独自のステーブルコインを発行する計画を発表している。多様なプレーヤーがステーブルコイン市場に参入しているが、参加者に経済的インセンティブを提供するモデルが主流になると、発行者側の収益性確保が難しくなる可能性がある。BitGoのこの新たな試みがステーブルコイン市場にどのような変化をもたらすのか、発行を検討する国内外の金融機関からの注目度も高そうだ。
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