金融業界で高まるデジタル資産への関心
2024年9月、米Northern Trust(ノーザン・トラスト)は、ロンドンで開催したシンポジウムTech Horizons: Exploring the Future of Innovation」でデジタル資産に関するサーベイを実施した。同シンポジウムには100名以上のプロ投資家やコンサルタントらが参加した。調査によれば、34%がデジタル資産をすでに投資ポートフォリオに組み入れている、もしくは近々に組み入れる予定であることが明らかになった。デジタル資産は、分散投資を強化する新たな投資商品としての認識が進んでいることが強調された。
さらに、66%がトークン化やデジタル化により最も恩恵を受ける金融商品として、プライベートアセット(未公開取引の商品)を挙げた。次いで、コモディティや不動産(54%)やマネーマーケットファンド(MMF, 36%)も注目されている。こうした見識は、これまで流動性が低かった資産クラスが、トークン化により流動性や効率性の向上、そして新たな価値創出が期待されていることを反映している。
State Streetも同様に、英調査会社のオックスフォード・エコノミクスと共同してデジタル資産に関する調査を実施し、4月に結果を公表している。この調査では、10億ドル以上の運用資産残高を持つ世界300社の金融ファーム(資産運用会社・投資家・保険会社など)を対象に、デジタル資産への準備状況などをヒアリングした。その結果、半数近くの金融ファームが、「適切なインフラが整備されれば、分散台帳やブロックチェーン上でデジタル資産取引を行う準備がある」と回答している。特に、トークン化された資産とデジタルインフラが、コスト削減と収益増加の両方に寄与するとの期待が高まっている。
ソース:StateStreet.com
さらに、62%の金融ファームはすでにデジタル資産専門のチームを立ち上げるか、今後立ち上げを予定しており、市場のデジタル化対応の進展が予想よりも早まる可能性が指摘されている。
地域ごとのデジタル資産への関心
State Streetの調査では、地域ごとのデジタル資産への関心の違いも浮かび上がった。アメリカの投資家は暗号資産に対して非常に強気で、45%が高いリターンを期待している。一方、アジア太平洋(APAC)の投資家は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に強い関心を持ち、28%がその導入に期待している。こうした地域ごとのデジタル資産に対するアプローチの違いが、デジタル資産市場の動きや価格の変動といったダイナミクスに影響を与える可能性がある。
サイバーリスクと規制対応の課題
デジタル資産の普及が進むにつれ、サイバーリスクやAIによる新たな脅威も注目されている。Northern Trustのシンポジウムでも、これらのリスク管理が重要なテーマとなった。クラウド技術やAIの進展により、デジタル資産の取引効率は向上する一方で、新たなセキュリティリスクが生じる可能性もあるため、金融ファームにとっての課題は多い。
特にAI技術の発展は、デジタル資産取引の透明性と効率性を高める一方で、サイバー攻撃や不正取引のリスクも増大させる可能性がある。このため、規制当局の対応と企業のセキュリティ戦略の強化が求められる。
生成AIがデジタル資産市場に与える影響
State Streetの調査によると、回答者の過半数が「生成AIはデジタル資産の開発や取引効率を加速させる」と考えている。生成AIは市場データを自動的に解析し、資産の評価やリスク管理を効率化するため、より迅速で正確な取引を可能にする技術として期待されている。
具体的には、生成AIを用いることで、アセットアローケーション分析やリスクマネジメントがより精度を増し、投資家が最適な取引タイミングを見極めやすくなる。これにより、デジタル資産市場全体の取引量や流動性が向上することが予想される。生成AIがブロックチェーン技術やスマートコントラクトと組み合わせることで、デジタル資産市場はさらなる効率化が進む可能性がある。
デジタル資産の未来と金融業界の変革
デジタル資産や暗号資産は、今後の金融業界においてまずます重要な役割を果たすとみられている。特にトークン化は、これまで流動性の低かった資産の取引を容易にし、新たな投資機会を提供することが期待されている。しかし、マネーロンダリングなどの規制対応やサイバーリスクといった課題も依然として残る。グローバルな潮流を見据えて、日本の金融機関はデジタル資産市場への参入とリスク管理のバランスを慎重に考慮しながら、変革が求められている。
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