仮想通貨オプションのOTCブロック取引を推進する米Paradigm社は2019年11月3日、Twitterを通じて、3つの新機能を発表しました。
発表された3つの新機能
発表された新機能は以下の3つです。
①Straddle(ストラドル)、Butterfly(バタフライ)、Vertical spread(バーティカルスプレッド)への対応開始
→従来は、スプレッド取引や組み合わせ取引を行う際に、個別オプションを単体で組み合わせて造成しなければなりませんでしたが、今後はそれらが1つのパッケージとして提供されることになります(例えば、バーティカルブルスプレッドを行う場合、従来はデルタの厚いコールをMMのOfferレートで買って、デルタの薄いコールをMMのBidレートで売らなければならない2重払いの状態でした。伝統的なFXオプション市場などでは、ドル円の110円callと115円callのスプレッド取引の際、MMは、10.5/10.8 vs 11.5chといった形で、どちらか一方のみ2way、残り片方をchoiceレートで提供します。今後はこうしたインターバンク的なカルチャーが仮想通貨オプション市場にも浸透していくことが予想されます)。
②スプレッド取引や組み合わせ取引における自動計算アルゴリスムの改善
→スプレッド取引や組み合わせ取引における自動プライスクォートの幅が改善されます。
③全てのRFQ経由のトランザクションを追跡できる機能
→RFQ経由の取引を市場参加者が確認できる機能。Nothingになったものも確認できるか否かは不明
上記3つはいずれも、個人投資家など市場参加者にとって喜ばしいことです。取引コストが下がることで、オプションを用いた投資戦略の幅が格段に広がるからです。
Paradigm社は別のツイートで次のようにも述べております。上記①に関連した部分です。スプレッド取引や組み合わせ取引をOne Net Priceで提供すると説明しています。
Trade a spread or combination using one net price. No more entering prices for individual legs! Proud to say that there is no system out there that currently allows this in the crypto-world!
出所:Paradigm 社のTwitterより
仮想通貨オプション市場の今後の展望
仮想通貨オプション市場はここ数ヶ月で飛躍的な発展を遂げつつあります。1年前までは、Deribit(オランダ)とLedgerX(米国)の2社競合状態でしたが、今年に入り、JEX(現BinanceJEX、セーシェル共和国)が台頭し、今年末から来年第1四半期にかけては、Bakkt(米国)やCME(米国)が加わることも決まりました。更に来年中には、ErisX(米国)や、SeedCX(米国)なども名乗りをあげることが予想されます。加えて、既存のFXオプションブローカー(4大ブローカー)の内2社が水面下で動き始めているとの噂もあります。
今般、Paradigm社がスプレッド取引や組み合わせ取引のOne Net Price化を発表したことで、個人投資家やヘッジファンドの新規参入が促される可能性があります(従来までは、スプレッド取引や組み合わせ取引における取引コストの高さがネックで参入を躊躇していた参加者が多かった為)。
但し、スプレッド取引や組み合わせ取引のプライス改善は、MM(マーケットメイカー)側にとっては、厳しい環境の到来を意味します。今後は、ヘッジファンドなど熟練投資家のオプションフローを引き受けなければならなくなるからです。薄利多売方式に耐えられないMMは撤退を余儀なくされるでしょう。事実、既存のFXオプション市場でも、2005年頃から2015年頃まで、ヘッジファンドの厳しいフローの引き受けが流行った時期がありました。
各金融機関の経営陣がヘッジファンドフローに一定の情報価値があると判断したことで、各社がこぞってヘッジファンドセールスと呼ばれる部隊を創設し、ヘッジファンドフローを獲得する戦略を取った時期がありました(2005年〜2015年)。その間、FXオプションディーラーは歯を食いしばって厳しいフローと対峙し続けました(例えば、米雇用統計の40秒前にUSDJPY monday ATM in 300mioを呼ばれたり、スイスフランショックの真只中にEURCHF 1week 1.1000 in 500mioを呼ばれるなど)。収益が上がったか否かは別として、これらの経験と苦しみを通じて、各オプションディーラーの経験値が上がったのは事実です。
今はフロントランニングが厳しく罰せられる時代背景もあり、ヘッジファンドフローを獲得するメリットが皆無となりましたので、ヘッジファンドへのプライス提供を止めたり、ヘッジファンドセールスの部署を縮小する金融機関が殆どです。
仮想通貨オプション市場はFXオプション市場が辿ってきた道をなぞっているように感じます。おそらく、各MMは大口フローに一定の情報価値があると考えて、仮想通貨オプション市場(特にOTCブロック取引)への新規参入を決めることでしょう。MMの新規参入は、「MMのプライス幅の過当競争→市場参加者にとっての取引コストの低下→熟練投資家の新規参入」を通じて、オプションビジネスの活性化に繋がります。2020年はいよいよ仮想通貨オプション市場の規模が飛躍的に拡大する年になりそうです。