フェイスブックのLibra、新たな国際送金システムを構築できるか

フェイスブックのLibra(リブラ)、新たな国際送金システムを構築できるか

2019年10月4日に電子決済大手の米Paypal(ペイパル)が、ソーシャルネットワーク・ウェブサイトの米フェイスブックが主導する暗号通貨Libra(リブラ)の運営団体への加盟を見送ることを明らかにしました。

Paypal made the decision to forgo further participation in the Libra Association at this time and to continue to focus on advancing our existing mission and business priorities as we strive to democratise access to financial services for underserved populations.

電子決済業者は暗号資産と親和性が高く注目の業態でしたが、中でもPaypalは、暗号資産決済を高速化させるアプリの特許出願をするなど、暗号資産関連事業の推進派で知られていたため、今回の見送りは市場にとってはややネガティブサプライズになったのではないでしょうか。

今回の見送りに対しリブラ側は、『変革を起こすことが困難な道であることは分かっている。Libraの約束する変革に向けて協働するかどうかは、各社それぞれがリスクリワードを評価し見極める必要がある。引き続き1500社がLibra協会への加盟に興味を持っている』などとコメントしました。

そして、Libra協会への出資を検討しているPaypalを除く残りの27社も、コミットするかどうか10月14日(月)に決定する予定とされています。

Building a modern, low-friction, high-security payment network that can empower billions of financially underserved people is a journey, not a destination. This journey to build a generational payment network like the Libra project is not an easy path. 

We recognize that change is hard, and that each organization that started this journey will have to make its own assessment of risks and rewards of being committed to seeing through the change that Libra promises. We look forward to the first Libra Council meeting in 10 days and will be sharing updates following that, including details of the 1,500 entities that have indicated enthusiastic interest to participate.

Oct 4th,2019 Dante Disparte, head of policy and communications for the Libra Association, said in an emailed statement

暗号資産Libra(リブラ)の発行計画

暗号資産(Libra)の発行計画に関するホワイトペーパーが最初に公開されたのは2019年6月18日のことです。

同ペーパーによれば、リブラ協会(本社:スイス・ジュネーヴ)は、銀行口座を持たない人々が手軽に且つ低コストで送金できるネットワークの構築を目的に設立された非営利団体であり、構想中の暗号資産Libraは、法定通貨を担保に発行される『ペッグ通貨』の形態をとり、各国の通貨と交換できる仕組みを検討しているようです。

ペッグ通貨と言えば、Tether社の発行する暗号資産Tether(テザー)が現在もっとも普及しておりますが、その信用力の問題(担保不足など)が度々指摘されきました。

Tetherに代わるペッグ通貨として、担保状況の公開(透明性の確保)や担保保証を付帯することにより信用力を高めたことで有名なのは、ゴールドマン・サックス社も出資している米Circle(サークル)社が発行するUSD Coinです。さらに国内では三菱UFJ銀行が計画するCOIN(コイン)などもペッグ通貨の形態が企図されておりますが、発行時期は未定の状況です。

ペッグ通貨は、価格変動の激しい仮想通貨とは一線を画し、実社会の利便性向上を目指す通貨として、「ステーブルコイン」とも呼ばれ、信用力の高い金融機関を中心に研究・検討が進められている領域です。

しかし、Libraプロジェクトに対しては、各国の金融当局や政治家などから相次ぎ牽制の声が上がり、マネーロンダリングリスクなどに対する懸念が示されました。

フェイスブックを取り巻く環境

フェイスブックはグループ(Instagram, Messenger, WhatsApp)全体で約27億人(世界人口の4割に相当)ものユーザーを抱える巨大IT企です。

若者のフェイスブック離れとは良く聞きますが、売上好調なInstagramを傘下にもち、世界株価ランキングでは現在5位です。2019年1Qの広告売上は昨年同比26%増を記録しました。

しかし、昨今のフェイスブックを取り巻く環境は決して明るいものばかりではありません。

2018年3月に最大8,700万人分にも及ぶユーザーの個人情報流出が発覚しました。フェイスブックの個人情報管理に著しい不備があったとして、2019年7月には米連邦取引委員会(FTC)より、50億ドル(約5400億円)もの巨額制裁金が科せられました。

偽アカウントとフェイクニュース問題もあります。2016年の米大統領選に係り、ロシアが組織的にフェイスブックに大量の偽アカウントを作成し、フェイクニュースを垂れ流す不正な選挙介入を招いたことや、2020年の米大統領選を前に、ロシアがインスタグラムを経由して類似手法で介入しようとしていること、政治広告のファクトチェック不実施など様々な指摘が挙がっています。

また、2020年大統領選の民主党候補として注目されているエリザベス・ウォーレン上院議員は、「ソーシャルネットワークに絡むトラフィックの85%以上はフェイスブックが所有または運営するサイトを通り、巨大な力を保持している」と寡占状態になっているフェイスブックを名指しで批判し、GAFA(Goolge Apple Facebook Amazon)と呼ばれる巨大IT企業の解体を主張しています。

さらには、米司法省も反トラスト法でGAFAの調査に乗り出しているとも報じられています。

人口の4割にも相当するユーザー数を管理する企業が、個人情報管理で問題視されている中、送金事業(暗号資産事業)に乗り出すとなると、既存金融システムへの大きな混乱が予想されることから、当局や政治家らから多くの警告が発せられています。

多くの逆風の中でも、イノベーションに貪欲な姿勢を掲げるフェイスブックは尊重されるべき存在でしょう。しかし、規制当局との対話を続け、既存金融システムとシナジーが生まれる方向にプロジェクトが進展し、ユーザーの利便性が向上する未来に期待したいです。

ワイン丸

外資系金融機関のファンドマネジャー・バイサイドリサーチ出身。社債投資・株式投資・為替運用・不動産投資・証券化商品投資を経験。英語・中国語・日本語のトリリンガル。海外情報担当。

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