11/7に中国人民銀行(PBoC /中央銀行)上海本部上海市商務委員会が共同声明で、ブロックチェーン技術が、貿易金融における「情報の非対称性」や「産地偽装」など証明書発行という核心的な問題を解決すること、さらに①金融機関の資金繰りリスクの低下、②輸出入業者の資金調達コストの引き下げにも繋がることを指摘したことがロイター通信より報じられました。
この前日の6日には、香港のeTradeConnect*とPBoC Trade Financeとを接続することを目的とする概念実証(Proof of Concept)の実施に係り、香港インターバンククリアリングリミテッドの子会社とPBoCのデジタル通貨研究所とが覚書を締結しており、2020年第1四半期にも概念実証を開始する予定であることが発表されています。
*eTradeConnectは、2018/10に香港銀行の中央銀行にあたる香港金融管理局(HKMA)が主導するブロックチェーン基盤の貿易金融プラットフォームで、香港の12の主要銀行で立ち上げたコンソーシアムが出資しています。
貿易取引においては、輸出入業者、船会社、金融機関、保険会社など多数企業との間で書類の作成及び授受や送金手続きなどが発生します。①膨大な書類の手続き、②書類の改竄リスク、③金融機関との守秘義務、④為替送金コスト、⑤標準システムの不存在、⑥プラットフォームの導入コストなど長年に渡り事務手間やコスト削減にかかる課題を抱えている分野でした。ブロックチェーンの誕生により、①改ざん耐性、②障害耐性、③効率性、④透明性・トレーサビリティの特性が貿易取引/貿易金融産業との親和性が高いとして以前よりその活用が着目されていましたが、スマートコントラクトの実装も加わり、2016年以降各国の金融機関で実証実験が開始されるようになりました。
国内でも、2016年に国内初となる「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤実現に向けたコンソーシアム」が発足しており、事務局であるNTTデータを筆頭に、現在は伊藤忠商事、兼松、川崎汽船、商船三井、住友商事、双日、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上日動火災保険、豊田通商、日本通運、日本郵船、丸紅、三井物産、みずほフィナンシャルグループ/みずほ銀行、三井住友海上火災保険、三井住友行、三菱東京UFJ銀行、OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(五十音順、敬称略)の大手18社が参加している状況です。
直近では今年2月に三井住友銀行が三井物産との間での実験を通じて、貿易に関連する膨大な書類作成や点検にかかる時間を約7割軽減する効果を確認したことが報告され、実用化に向けて推進していることが報じられました。
貿易取引における資金決済面では、輸出業者と輸入業者双方の間で、主に信用リスク(代金支払い・荷物の引渡し・取引キャンセルリスク)及び為替リスクが存在します。後払いや先払い決済ではどちらか一方の業者が相手方のリスクをより取ることになるため、特に初めて貿易を行う業者同士の場合、銀行が発行するL/C(Letter of Credit/信用状)を活用して、輸入業者の資金決済に銀行が保証をつけ、荷物の受領を確認後に銀行が決済する信用補完方法などがとられてきました。金融機関及びコンソーシアムでは、こうしたL/Cの発行手続きから外国為替送金までを一気通貫してブロックチェーンの活用を目指しているようです(下図参照)。

今回、中国の貿易黒字相手国・地域の2位に位置する香港との概念実証が成功すれば、デジタル人民元のDCEP構想と絡み、中国の一帯一路構想にますます拍車がかかると考えられ、日本でも実用化に向けた開発で急務を強いられそうです。