法定デジタル通貨の発行、ECBも検討に動き出す

米フェイスブックが主導するLibra(リブラ)プロジェクトのホワイトペーパーが公開されて以降、グローバル・ステーブルコイン、中でも各国が検討を進める中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の研究開発が加速しています。デジタル覇権争いで世界をリードしたい中国は、デジタル人民元(DCEP)の試験運用の開始(まずは中銀と商業銀行間)が近いことが示唆され10月のヘッドラインを賑わせました。具体的なスケジュール感は一切公表されていないものの、世界で最初にCBDC(又は法定デジタル通貨)を発行する国になると見られています。

中国の他にも、シンガポール金融管理局(MAS)やカナダ銀行(BOC)が早期より共同して研究開発に着手しており、すでに海外送金は運用実験で取り組んでいる状況です。これに続くようにイギリス、香港、タイをはじめ様々な国がCBDCsプロジェクトを公表しています。

そして今週は欧州で2つの動きがありました。
1つ目は、欧州連合(EU)が、欧州中央銀行(ECB)や他の欧州の中央銀行に対して、法定デジタル通貨の発行の検討を提言したことが11/5にロイター通信が入手した草案文書で明らかになったことです。文書は輪番制で現議長国を務めるフィンランドがまとめています。

2つ目は、続く11日に、8年間ECBの理事会メンバーを勤め12/31に任期満了となるブノワ・クーレ氏が、国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)にて、民間企業が主導する暗号資産に代替する法定デジタル通貨の発行など、フィンテック技術に焦点を置いた新部門を率いることが発表されたことです。

BISは60の中央銀行が出資する組織で、各国の中央銀行の協働関係が推進する役割を持ち、国際的な委員会に事務局機能を提供していることでも知られています。バーゼル銀行監督委員会が策定したバーゼル規制が「BIS規制」とも呼ばれる由縁です(従って正式呼称は「バーゼル規制」です)。

EU域内の法定デジタル通貨構想

ロイター通信の報道によれば、5日に入手したEUの草案文書には、暗号資産に対しEU域内共通の対応策を策定することや、高リスクと判断されたプロジェクトの遮断などが織り込まれており、今年9月にパリで開催された経済協力開発機構(OECD)会議の場で、フランスのルメール経済・財務相が発言した内容に沿ったものと見られます。

ルメール氏は、リブラが市場支配を巡る懸念を高め、国家の主権を脅かし、消費者や企業のリスクを増大させる構想であること、また世界金融市場に深刻な混乱を招く可能性があること指摘し、欧州でリブラの利用は阻止するとの考えを示していました。さらにEUの各国政府に対しては「パブリックデジタル通貨」の開発を独自に取り組むよう呼びかけており、今回の草案の方向性も独自の法定デジタル通貨の発行と法規制によって、リブラの普及と利用を制限する狙いがあると思われます。

同草案は、8日に開催されたEU経済・財務相理事会(ECOFIN・ブリュッセル)で議論され、来月5日に採択される予定とのことで、EUはECBの取り組みを歓迎する共同声明を出す見込みであることも報じられています。

8日に開催されたECOFINの開会挨拶で、ラトビア共和国の元首相であり現欧州委員会副委員長などを務めるヴァルディス・ドンブロウスキス氏は、ステーブルコインについて次のような点を述べました。

  1. 国際競争において、欧州は金融セクターを含む技術革新を受け入れるべきであること。
  2. クロスボーダー業務やフィナンシャル・インクルージョン(金融包摂)において、ステーブルコインは安くて速い支払機会を創出すること。同時に小規模なFinTech活動とグローバル・ステーブルコインの取り組みとを区別してリスクを考慮する必要があること。
  3. リブラプロジェクトの出現により、安くて速くて便利な送金・支払とのギャップが浮き彫りとなった今、欧州機関やマーケットプレイヤーもこれに取り組む必要があること。
  4. 暗号資産に関しEU加盟各国と足並みを揃えること。
  5. 規制整備によりリスクを明確化した上で、イノベーションを支援すること。

同日8日に記者会見を行ったルメール氏は、法定デジタル通貨の実現には時間を要する。だからと言って実現に向けた取り組みを妨げるものではなく、来年には結果が得られるよう取り組んでいくと述べ、民間銀行への影響や法定デジタル通貨の導入条件を明確化していくことを示しました。

ECB関係者によると、法定デジタル通貨の取り扱いについては、ECBに直接銀行口座を開設できるという最も非現実的な形態から、中国のデジタル人民元(DCEP)でも採択された、中銀(ECB)から民間銀行、民間銀行からユーザーの2段階形態など、広く検証が進められているようです。

もっとも、EUは28ヶ国もが加盟する連合で、現在でも各国の暗号資産に対する対応が異なる状況で、統一方針の取りまとめは容易ではないと思料します。さらに、リブラは銀行口座を持たない(unbanked)ユーザーの送金手段の構築を目的としており、CBDCsとは役割が異なるため、リブラの普及見通しも未知数ながら、CBDCsの発行でその利便性が代替されるものかも疑問が残るところです。

いずれにせよ、課題の多さから蓋をしようとしていた中銀もいると思われる中で、リブラプロジェクトの出現を契機に、デジタル通貨について各国が一歩踏み込んだ研究・実験をせざるを得ない状況に追い込まれる構図となり、世界初のCBDCsの誕生もそう遠くない未来となりました!

ワイン丸

外資系金融機関のファンドマネジャー・バイサイドリサーチ出身。社債投資・株式投資・為替運用・不動産投資・証券化商品投資を経験。英語・中国語・日本語のトリリンガル。海外情報担当。

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