国際金融センターのシンガポール、ビットコイン等のデリバティブ取引解禁に動き出す
アジアでは香港に次ぐ国際金融センターとして知られるシンガポールで、シンガポール金融通貨庁(MAS)が20日、ビットコインやイーサリアムに代表される「ペイメントトークン」のデリバティブ(金融派生商品)取引解禁に向けた規制(案)を公表しました。
シンガポールの証券業・先物業・資産運用業は、日本の「金融商品取引法」にあたる、シンガポールの「証券先物法」(Securities and Futures Act:SFA)に基づき規制されております。
今般の規制(案)はこの「証券先物法」で、先物取引及びデリバティブ取引の対象とされる「Underlying thing」の定義に「ペイメントトークン」を加え、これまで位置付けが不明確で規制対象外にあったペイメントトークンを、当局の認可する取引所(Approved Exchange)に限っては、先物を含むデリバティブ商品の上場及び取引を適法とさせるものです。
こうした動きの背景には、機関投資家(特にヘッジファンドやアセットマネージャー)の暗号資産エクスポージャーの増加とヘッジニーズの高まりがあると考えられます。
(参考:「ペイメントトークン」の定義)
In this regulation, “payment token” means any digital representation of value that
—
(a) is expressed as a unit;
(b) is, or is intended to be, a medium of exchange accepted by the public, or a
section of the public, as payment for goods or services or for the discharge of
a debt; and
(c) can be transferred, stored or traded electronically,
but does not include any payment token that is a digital representation of value where the value is fixed to any of the following in amounts that are determined at the time of issuance of the payment token and thereafter cannot be changed:
(i) a single currency; or
(ii) two or more currencies.

定義からLibraのようなペッグ通貨はペイメントトークンの対象外のようですね。
MASはビットコイン 先物取引について次の見解を示しています:
他の法域(米国を示唆)で誕生したビットコイン先物取引が、原資産市場に規律をもたらし、規制のないビットコイン のスポット市場の過熱感と価格変動を抑える効果を発揮したことはほぼ間違いなく、洗練されたリスク管理と投資戦略を持つ機関投資家によって支えられ、適切に規制されたデリバティブ市場は、より信頼できるスポット価格の参照先として機能する。
そして、今般、イノベーションとの共存を図りながら、健全な金融市場構築のため、制度整備を進めたいとして、国際金融センターの名に違わぬ方針を掲げました。
但し、MASは現段階より全てのペイメントトークンデリバティブを適法として規制管理下に置くことは考えておらず、前述の通り認可取引所(Approved Exchange)に限定しています。
シンガポール の認可取引所
認可取引所となっているのはシンガポール取引所(SGX)の証券取引所とデリバティブ取引所、ICE Futures Singapore、アジア・パシフィック証券取引所(APEX)の4つです。
認可取引所は、システム上重要な機関に位置付けられ、MAS管理下でより厳格な要件と監視が課せられているため、ビットコイン 先物取引の導入段階では最適なプラットフォームであると言えます。特に、①参加者やメンバーに違反行為があれば懲戒処分や取引アクセスの停止処分にできること、②市場操作を監視、検出、抑止する機能を備えていること、③規制された清算機関を介した証拠金、清算、決済プロセスによりカウンターパーティーリスクの緩和や、新たなリスクの制御が可能であると判断されたものと考えます。
他方、認可取引所以外での同デリバティブ取引については、①金融システムのシステミックリスク、②プラットフォームの堅牢性などの観点で、リスク制御に十分な確証が取れないことから、現段階では許容していません。将来的な規制範囲の拡大(適法化)は、必要性を考慮して総合的に判断していくとしています。
なおMASは、今回のデリバティブ解禁によって個人投資家が勘違いしないよう注意喚起しています。
ペイメントトークンのデリバティブは、原資産のボラティリティが高く、本質的な価値の評価が難しい上、投資元本以上の損失を被るリスクもあることから、個人投資家は投資を控えることを強く推奨しています。
さらに個人投資家保護対策として、業者側に対しては、広告等規制やリスク情報・警告文の表示、認可取引所が要求する通常の必要証拠金の1.5倍(フロアー50%)を取引要件に課すことで、個人投資家の投資妙味を無くす措置を2020年6月までに導入予定ともしています(下図参照)。

規制の施行見通し
今回の規制(案)については、2019年末までにパブリックコメントを募集した上で、2020年中にも新規制を施行する予定としています。
アジアの機関投資家がビットコインやイーサリアム の先物取引等含むデリバティブ商品に適法にアクセスできるようになることで、暗号資産市場は一層洗練されていくことでしょう。
また、暗号資産のデリバティブ市場においては、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)やBAKKTのオプションサービスのローンチもそれぞれ控えておりますので、各地域でユーザー獲得競争も激化しそうです。