ブロックチェーンを用いた「デジタル証券化」の波が日本にも押し寄せてきており、2020年はまさに「セキュリティトークン元年」になるとも言われています。
この記事では、足元注目を浴びつつある「セキュリティトークン」を推進する3つの団体の内、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFGグループ)が主導する「ST研究コンソーシアム」(ST=Security Token、略称SRC)について解説いたします。
その他の業界団体についての記事はこちらです。
・一般社団法人日本STO協会
・一般社団法人日本セキュリティトークン協会
ST研究コンソーシアムとは

ST研究コンソーシアム(SRC)は、MUFGグループがセキュリティートークンを活用した「資金調達・投資検討、アレンジ・媒介検討、技術協力・決済検討」を行うために、知見を有する協力企業全 21 社と共に2019年11月5日付で設立したコンソーシアム(共同団体)となります。
コンソーシアム事務局は、本サービスの提供者となる三菱 UFJ 信託銀行が、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券および三菱 UFJ 銀行の 2 社と連携して運営しています。
グループ別の役割としては、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券が法人向けを中心とした媒介者(売買の媒介者)として、「Progmat(プログマ)」と呼ばれるネットワークへ参画し、三菱 UFJ 銀行は本サービスを活用した将来的な商品組成検討(ブレイン)を担っています。
Progmatは、「金融取引(電子記録移転権利等(いわゆるセキュリティートークン))を”プログラマブル”に」をコンセプトとする、スマートコントラクトを活用したネットワークで、根幹技術に関しては、日本国内で特許が出願されています。
Progmatのコンセプトペーパーはこちらです。
セキュリティトークンを推進する3つの団体
日本では、セキュリティトークン・ビジネスを牽引する業界団体として、①ST研究コンソーシアム、②日本STO協会、③日本セキュリティトークン協会の3つが存在します。

上記の内、②については本邦主要証券会社9社が加盟している他、2020年4月30日付で金融庁より自主規制団体として認定されるなど、「金融・証券色(+SBIグループ色)」が強い自主規制団体です。
③については、会員の業態が多岐に渡ることから、よりビジネスサイドの中立的な業界団体(強いて言うならば、やや不動産色が強い)とみられています。
こうした中、①ST研究コンソーシアムは、MUFGがセキュリティートークン取引に係るサービス提供を行うに際して、共同企業の知見を集約する為に設立されたMUFGグループが主導する団体です。ゆえに、共同企業も三菱色の強いメンバーを中心に構成されているように見受けられます。
ST研究コンソーシアムの目的
株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、以下 MUFG)の連結子会社である三菱 UFJ 信託銀行株式会社は、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券株式会社、株式会社三菱 UFJ 銀行と共に、ブロックチェーン技術を活用して証券決済・資金決済の一元的な自動執行を可能にしつつ、投資家の権利保全も併せて実現する基盤の提供を目指し、協力企業全 21 社と「ST(Security Token)研究コンソーシアム」(略称 SRC)を設立しました。(2019年11月7日付けプレスリリースより抜粋)
ST研究コンソーシアムが実現するサービスの概要

①Security Token と Smart Contractとを組み合わせ、また将来的に社会実装が見込まれる外部の Programmable Money(ブロックチェーン上での資金決済手段)との連携により金融取引をプログラムベースで稼動可能にすることで、1 つのプラットフォーム上で社債や証券化商品等の“様々な金融商品”を取扱い、24 時間365 日“いつでも柔軟に”、“どこからでも”専用端末が不要で、小口の個人投資家や海外投資家を含めた“誰とでも”、資金調達や運用を可能とする。
②現行のトークン化による資金調達における課題の 1 つである、カウンターパーティリスクを極小化できるよう、ブロックチェーン基盤に信託を組み合わせ、投資家の権利を保全できる仕組みも構築する。
具体的には、現行の社債、または裏付資産に係る信託受益権の権利保有者についての原簿情報をブロックチェーン上に保持し、権利の移転が生じる都度、原簿情報が自動で更新され、法的にも権利を主張可能な状態にします。また、発行時に各証券に関する情報が全てプログラム化され、期中利払や償還に伴う資金の移動も自動で実行されます。更に、証券の権利移転と同時、かつ自動で資金決済を行うために、本サービスは異なるブロックチェーン上のトークン同士を、第三者を介すことなく交換可能にすることを目指します。
出所:2019年11月7日付けプレスリリース
ST研究コンソーシアム参加企業

資金調達・投資検討者(非開示先も含め計8社)
KDDI株式会社 |
日本電信電話株式会社(NTT) |
三菱商事株式会社 |
他5社 |
アレンジ・媒介検討者(計4社)
有限責任あずさ監査法人(KPMG) |
auカブコム証券株式会社(上図は旧称) |
日本証券金融株式会社 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 |
(三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社) |
技術協力・決済検討者(計10社)
アクセンチュア株式会社 |
株式会社au ペイメント(上図は旧称) |
au アセットマネジメント株式会社 |
au フィナンシャルホールディングス株式会社 |
Global Open Network Japan株式会社 |
au じぶん銀行(上図は旧称) |
Japan Digital Design株式会社(MUFGのスピンアウト企業) |
Securitize, Inc. |
日本電信電話株式会社(NTT) |
株式会社LayerX |
まとめ

ST研究コンソーシアムは、他の業界団体が掲げる自主規制やSTOの普及啓発とは異なり、MUFGグループがセキュリティートークンに関連するサービス提供を行うために、グループ会社を中心とする知見を集約するために創設された共同団体となっています。
しかし、今般の資金決済法等改正(内閣府令)によって、信託銀行による暗号資産現物のカストディが禁止されたため、当初の構想通り、三菱UFJ信託銀行がサービス提供を行えるのか不透明な状況とも言えます。
何らかの方針転換があるのか、今年に入ってから新たな情報は公開されておりませんので、今後のMUFGグループの動きにも注目していきたいと思います。